「ど・・・どうしよう・・・。」
私は今、途方に暮れている。
「あの・・・あのあのあの・・・。」
私の、あまりのパニックぶりに、京香さんは呆れ、カイさんは笑ってる。
しかし、だ。
この状況で、この私に、パニクるなと???? そりゃ無理でしょぉぉぉっ!!!!
あ。そこ。そこそこそこ。信二さーんっ。会長室の片隅で、PCと睨み合って何してますか・・・。
チラチラと私を見る目が笑ってますが、貴方、先日、保身の為とか言ってとんでもないモノ作って蘭様に渡してましたよね・・・。
今度は何ですか・・・。怖いんですけど。
行きたい。傍まで行って確かめたい。
だが、しかし。
正直言って、今はそれどころではない。
っていうか、動きたくても動けない。
私の肩をシッカリと抱くこの手は何っ!!!???
そして、私の隣に座ってニコニコ笑う、超絶美形な貴方サマは・・・一体誰ですかぁぁぁぁっ!!!!
ゼィゼィ・・・はぁはぁ・・・。
大体ですね。私は、会社のロビーで、ついさっき突然拉致られてココまで来た訳で。
何が何だか解ってないんですっ!!
ええっ。私を小脇に抱えて拉致って来た超絶美形な方の顔も知らなければ、なぜ、社の会長室に連れ込まれたのかも解りませんっ!!
ついでに、今、眼の前で風神・・・いやいや、雷神、いやいやいや阿修羅の如き形相で仁王立ちしている蘭様の、その激怒っぷりは一体。
とにかく、誰か助けて・・・。
笑ってないで説明して。
うるうるうる・・・。
そんな訳で、とても便利な脳内実況中継録画編に参ります。
時間は昼休み突入直後のロビー。なぜかいつもより人ごみが凄かった。
しかし、私は心ウキウキ。なんたって、一週間前から蘭様にお願いされていたお弁当を届けに行くのだ。
『りぃちゃん、無理言ってゴメンね。雑誌の取材とポスター撮りがあるの。金曜だけど、いい? りぃちゃんのおいしいお弁当が食べたいの。』
なーんて可愛くお願いされて、私はドッキドキ。勿論、二つ返事で引き受けた。
で、当然のように。
『わーいっ。りぃちゃんのお弁当。私も私もっ。』
『勿論、今回はオレ達の分もあるよね?』
『オレも食べたい。嫁さん、洋食が多くって。』
と言われて、計四人分。
ちょっと持って来るの大変だったけど。作るのはもっと大変だったけど。重箱4段に、しっかり、いっぱい、蘭様の好きな物を詰めて保冷
バッグへ。
電車での移動中は重かったけど、蘭様の嬉しそうな顔を想像したら何でもない事だった。
そんな訳で、待ちに待ったお昼休み。
「今日のお仕事は午後かぁ・・・お昼休みじゃ少ししか一緒にいられないなぁ。」
残念。とか言いながら、うんしょうんしょとお弁当を運んでいたのだ。
そう、ロビーまでは順調だった。
ところが、だ。
「ふぅ・・・おも。」
なんて肩に食い込む保冷バッグを一端床に置いて一息ついてたら。
「へ?」
なんなんでしょうか・・・このシーンとした気配は。
ふと、顔を上げて硬直した。遥か頭上から、某ブランドスーツを見事に着こなした超絶美形っぷりも素晴らしい男性が、銀ぶち眼鏡の向こう
で眼をキラッキラさせて私を見下ろしていたのだ。
く・・・空気が違う。彼の周りだけ、大輪の白薔薇が咲きまくっているような・・・。
「はみゃ・・・?」
えっとぉ・・・この感じ。何処かで。
ああ、蘭様だ・・・。蘭様は白百合だけど。
なんて思っていた余裕も、直後に吹っ飛んだ。
「ひゃっ。」
イ・キ・ナ・リ・その男性に抱えられたのだ。
しかも、小脇に。
両足をぷらんぷらんさせたまま、私は重役専用のエレベーターへ。
なぜか彼は、しっかりと保冷バッグまで軽々と持っていて。
「なっ、なっ、なっ。」
何事 っ。なんて、怖くて声になりません。
だって、ロビーには沢山の人がいたのに、誰も助けてくれないんだもの。
そうして私は拉致られたのだ。
なぜか会社の会長室に。
勿論、私を抱えた男性を迎えた秘書たちは硬直。あたふたと扉を開けて、閉めた。閉めてしまったのだ。
だ・・・誰も助けてくれないのぉぉぉっ?!
その叫びすらも脳内で、だ。
「ふぅ。まさかこんなお宝に巡り合えるなんて・・・。」
重厚で高級感たっぷりのソファに座らされ、恐る恐る見上げた視線の先。キラッキラの眼が私を見下ろしている。
な、な、何なんですかっ。
「君、名前は?」
ひゃーっ。低くて良い声。な、何て言うの? アルト? バリトン・・・っだっけ?
「あの・・・あのあの・・・。吾川・・・璃樹・・・。」
「あがわりじゅ・・・りぃちゃんかぁ。いい名前だね。年は? 独身?」」
えっとぉ・・・その前に、何か違う気が。
ど、どどど、どうして隣にぴったりくっついて座るんでしょーか。
この肩に回った腕は何ですかっ?!
「に・・・二十四・・・。どくし・・・ん・・・です。」
「良かったぁ。」
「は?」
「結婚適齢期だね。」
そ・・・そうなんですか・・・って。なんで私、見ず知らずの人の質問にペラペラ答えてるの?
「うんうん。偶には会社に来てみるもんだね。こんな出逢いがあるなんて。」
「・・・???」
「恋人は? あ、いても気にしないよ。大丈夫。」
「???」
「ボク以上にりぃちゃんを愛してる男はいないから。で? 一応、恋人はいる?」
チュッ。
「・・・??」
チュッて・・・チュッて・・・ほっぺにちゅうって・・・??!!
すみません・・・。
この後、しばらく記憶がありません。
ただ、それから間もなくだったと思います・・・。
会長室のドアをぶち壊す勢いで蘭様が登場したのは。
あの勢いだと、誰にも止められません。だから、誰も責められません。
しかし。
後ろから暢気にやって来た、カイさんや京香さんや信二さんを責める資格はあると思います。私には。
そして、現在。
「ねぇ? りぃちゃん。」
「は・・・????」
「人の恋路を邪魔するなんて、蘭は相変わらず性格悪いよね。」
「へ????」
「で、新婚旅行、何処にしようか? やっぱりモナコは外せないよね?」
はいぃぃぃぃぃっ!!??
な、ななな、何の話でしょうかっ!? っていうか、本当に、貴方サマは、どなたですか っ??!!
「大地ぃぃぃぃぃっ!! その手を、離しなさいっ!!!!! りぃちゃんを返しなさ いっ!!!!」
あ・・・ああ。蘭様・・・人相変わってます。般若です。
って・・・大地??? 今、大地って呼ばれました??
「煩いなぁ。しっしっ。あっち行ってなさい。大体、仕事はどうしたの。相変わらず半端な事してるの? 蘭。」
「何ですってぇぇぇぇっ!!!!」
「働かざる者食うべからず。会社はサボっている人間にまで給料は払いません。解ってるね?」
「だ〜い〜ち〜〜〜っ!!!!!」
「何かな、蘭。お兄ちゃんに何か文句でも?」
は・・・はいぃぃ??
い、今、なんと・・・。
「お・・・にぃ・・・ちゃ????」
「あれ? りぃちゃん聞いてなかった? ボク、蘭の双子のお兄ちゃんです。ついでにココの会長代行もしています。」
「・・・。」
「29歳独身・・・だった。過去形だね。今はりぃちゃんというレッキとしたフィアンセがいるから。あ、婚姻届。秘書課の誰かヒマしてるかな。
市役所まで取りに行ってもらわないと。あれ? 区役所だっけ??」
ニコニコニコニコ、ニッコリ。
ちょ・・・ちょちょちょ、ちょぉぉぉぉぉぉっとぉ待ってくださいっ!!!!
レッキとしたってなんですかっ、レッキとしたって!!??
そんな無敵の美貌でニッコリされたって・・・って?
「わ・・・わた、しっ。」
全面否定させて頂きますっ!!
って、だがしかし。
それどころじゃない光景が目の前に・・・。
「大地ぃぃぃぃっ!!!! あんたっ!! 殺すわよっ!!!!」
「わ・・・わぁ・・・。」
私を覆ったこの黒い影は・・・もしかして、もしかしなくても、一人掛けソファではありませんかっ?!
「私のりぃちゃんから、離れろぉぉぉぉぉっ!!!!」
「うっきゃぁぁぁぁっ!?」
蘭様ご乱心っ。
「蘭っ。そんな物投げつけて、万が一にもりぃちゃんが怪我をしたらどうするんだ。まぁ、オレがいるから安全だけど。ねぇ?」
いやいやいやいや、そういう問題では。
でも、大地さんのその一言で「ぐっ」と唸って蘭様は止まった。ソファを頭上に構えたまま。凄い怪力。
「大丈夫。愛しいりぃちゃんはオレが絶対護ってあげるからね。」
って、肩を゛だきゅっ!!゛ って抱き締めないでくださいぃぃぃっ!!!!
あれ? 今、゛オレ゛って言いました? ゛ボク゛じゃなかったですか??
いや、そんな事はともかく。
「大地っ!! 私のりぃちゃんから離れろって言ってるでしょ っ!!!!」
あっきゃぁぁぁっ!! 蘭様大暴れしてますけどっ?! 何を落ち着いてるんですか、皆さんっ!!??
と、その時。
「おーい、お二人さん。出来たよーっ。」
なんて、暢気な信二さんの声が部屋の片隅から。
途端、いそいそと信二さんの許に駆けつける大地さんと蘭様。しかも、几帳面な蘭様は、持ち上げていたソファを元の場所に戻して
からポンポンと埃まで払った。ご両親の躾が良いのね、きっと。
・・・で? 出来たって何が??
顔中疑問符で埋め尽くしていた私の傍には、いつの間にかカイさんと京香さんが、どかっ、と私を挟むようにしてソファに。
「ふぅ・・・相変わらず、仲が良いんだか悪いんだか。」
「ホント。いつも騒動を巻き起こすのよね。あの双子は。」
はぁ、そうなんですか。いつもですか。
もの凄く疲れてるんですけど、私。
「何たって、趣味一緒だから。」
疲れ切った私を見下ろし、カイさんが一言。
「へ?」
「好みが同じなのよ、あの二人。」
とか言いながら私に意味深な視線を向ける京香さん。
「へにょぉ・・・??」
何の事ですか、お二人とも??
「ちっちゃくて可愛いもの大好きなんだ。大地さんも、お蘭も。」
「柔らかくって、ほわんほわんしたものも、凄く好き。特に大地さんは。」
やっぱり私の顔は疑問符でいっぱい。
「????」
「「だから、ね。」」
あのぉ・・・カイさんに京香さん??
私に向けられたその視線は一体・・・。
「あの? カイさん? 京香さん??」
やがて戸惑う私から視線を外し、二人は盛大な溜息でソファの背もたれに埋もれた。
なんだろ・・・。
「あーっ。信ちゃん信ちゃん、コレ良いなぁ。」
ん? あれ、いつの間に??
「あ、大地。趣味いいわね。」
さっきまで険悪ムードだったのに。
信二さんのPCを覗く大地さんと蘭様は随分と楽しそう。
「だろ? 信ちゃん、レモンとライム色も出来る?」
「じゃあねぇ。私、白とピンク。」
やっぱり双子だなぁ・・・肩を並べてニコニコしてると、なーんか微笑ましい。
まぁ、超絶美形過ぎて、普通は誰も肩を並べようなんて思わないだろうし、きっと仲良しである事に変わりはないんだよね。喧嘩する
ほど仲が良い兄妹って感じ。
ふふ。あんまり心配する必要はないみたい。
「OKOK。じゃ、こんな感じでどぉよ?」
「「凄いよ信ちゃんっ!! 最高っ!!」」
それにしても・・・?
えっとお。さっきまでの危機的状況は何処に行ったんですか?
っていうか、信二さん・・・貴方、今まで部屋の隅っこでPCと睨めっこしてましたが、一体何をしてたんですか?
得意満面なその笑顔・・・そのPCには一体何が・・・。
「きゃあvv 大地ぃ!! レモンとライムカラー、大正解!!」
「だろだろ? 蘭もいいじゃん。白にピンク。」
「ふふふっvv でしょーっ。」
なんか・・・随分とテンションが高いようですが・・・??
お二方??
「見て見てりぃちゃんっ!!」
「?????」
「やっぱ、りぃちゃん最高!!」
「??????????」
「「ほらぁっ!!!!」」
い っ?????
はしゃぐ大地さんと蘭様が覗くPC画面には、ひらひらメイド服姿の私がいた・・・。
「「ね、趣味も好みも一緒でしょ?」」
カイさん・・・。
京香さん・・・。
私の立場って、一体・・・。
【コイトツ/08.31】第二話 完。